CSR REPORT 2015

特集/feature 田中林業(株)×三菱製紙販売(株)座談会 FSC®の未来を探る

FSC

都心から車でわずか1時間。東京都西多摩郡檜原村※1の豊かな自然の中に広がるのが、都内で唯一となるFSCの森です。三菱製紙販売の3名の社員がこの地を訪ね、森を管理する田中林業株式会社の田中惣一社長とFSCの未来について語り合いました。

FSCの森を訪ね、森に学ぶ

遠藤 私は今まで「森は暗いもの」と思い込んでいたので、田中林業さんの森の明るさに驚きました。東京にこういう場所があるとは知りませんでした。実際にFSCの森を訪れて、その豊かさや美しさを実感しています。

田中社長 当社がFSCの認証を取得したのは2012年3月です。林業家が集まる勉強会がきっかけで、FSCを知りました。日本の林業が衰退する中だからこそ、「東京の森でFSCを取得する」というインパクトで林業の新たな可能性を広げたいと思ったのです。FSCを通してさまざまな人とつながりたいと思っていた頃、三菱製紙販売さんとの出会いがありました。

篠原 田中林業さんとは、2014年からのお付き合いで、当社としてもいろいろと勉強させていただいています。田中林業さんが取り組まれるエコツアーには、すでに多くの従業員が参加していますね。

田中社長 当社のエコツアーは10年ほど前から始め、これまでに延べ1万人以上の方が参加しています。東京では自然に触れ合う機会は限られていますが、多くの人に森と親しむ原体験を持ってほしいというのが私たちの願いです。その記憶は後々まで森を見ていると心が落ち着く、動植物と触れ合いたい、自然を大切にしたいという思いとして残ります。

田中 私はもともとインドア派で、大人になるまで自然の中で遊ぶ経験をほとんど持たずにきました。それが田中林業さんのエコツアーを機にアウトドアを楽しむようになり、一緒にツアーに参加した娘も強く興味をひかれた様子でした。

田中社長 エコツアーの引率では、子どもたちの視点や観察力に驚かされることが多々あります。森に入ると、インストラクターが多くを語らなくても、子どもたちは自ら自然の素晴らしさを感じ取り、自由に学び始めます。過去にエコツアーに参加した子どもが、成長して森を守る仕事に就いたという話を聞いたときは、取り組みの意義を感じますね。

遠藤 私も2歳と5歳の子どもがいるので、ぜひこのFSCの森に一緒に来てみたいですね。子どもがどんな反応をするかと思うと楽しみです。

FSCの普及に向けた課題

田中社長 現在、日本におけるFSCの森のFM認証取得数は頭打ち感があります。関心がある林業家のFSC認証取得が一巡し、維持・更新費用の負担から、あえて取得に踏み切らない林業家も多くいます。個人的にはエコツアーなどをもっと広げ、FSCの認知度を高めることで、FSC認証材という付加価値への理解を進められればと考えています。FSC認証が木材価格に反映され適正な価格で流通できるようになれば、取得をめざす林業家は増えてくるでしょう。

田中 日本のFSCの認知度は5%程度しかないという調査データ※2もあり、当社も課題を感じています。FSCという言葉自体の分かりにくさも一因となっているのかもしれません。

篠原 一方、同調査でエコマークの認知度は88%となっており、もっと消費者目線での活動の必要性を感じています。当社では、FSCの認知度アップのイベントとして、FSCフォレストウィーク※3に参加しています。また、2020年には東京オリンピックを控えていますが、ロンドンオリンピックでFSC認証材や認証紙が採用されたように、日本でもオリンピックを機に普及と理解が進むことを期待しています。

遠藤 私自身、今までFSC®について知る機会が少なかったように感じます。自分の会社で取り扱っている紙でありながら、消費者の立場であらためて注意して見れば、身のまわりにはFSC商品が多くあることに気づきました。認知度向上のためには、FSCの森の素晴らしさを体験するエコツアーは非常に有意義だと思います。

田中 一方で感じるのが、事業としてFSCを扱うことの難しさです。当社のようなBtoBの会社では、消費者の認知度向上が売上や収益に結びついていることを実感しづらいというジレンマがあります。今後、事業につなげられるよう、FSC認証紙の導入や社員教育を考えるお客さまに森を訪れてもらうなどのアプローチを模索しているところです。当社単独ではなく、業界や自治体などと連携した取り組みで訴求力を高めていくことも大切なのでしょう。

豊かな自然が広がる未来のために

田中 田中林業さんとの協働により、森というフィールドを近くに持てることは、当社の大きな強みになっています。環境事業のテーマである「次の世代の子どもたちのために」豊かな自然を残していく活動はもちろん、事業面でも明るい未来につなげていけるよう、より良いパートナーシップを築いていければ嬉しいです。

遠藤 例えば、子どもが森で遊んだ思い出を残せるようなグッズ製作などができれば、事業と結びつくかもしれません。私も主婦としての感性を活かしたアイデアを提案していきたいです。

篠原 FSC認証紙の需要拡大は私たちの責務ですが、紙だけではなく認証材の利用も広げる必要があると思っています。日本では、森を守るために適切な間伐が必要で、木はどんどん使わなければならないという認識がまだ不十分だと感じます。正しい理解を広めながら、田中林業さんとともに森林保全につながる事業を展開できればと思っています。

田中社長 私も次のステップとして、このFSCの森からの商品を貴社と一緒に世の中に出せればという思いがあります。例えば当社の森ではメープルシロップがとれますが、これはFSCの森では世界初のこと。商品化できると大きなインパクトを出せるのではないかと思っています。

篠原 それは魅力的な商品になりそうですね。今後もいろいろとご相談しながら進めていきたいと思います。本日はありがとうございました。

 
田中林業(株) 代表取締役 田中 惣一

田中林業(株) 代表取締役
田中 惣一

江戸時代から続く田中林業の15代目。平日は山仕事、週末は体験の森で講師を務めるなど多忙を極める。

直需四部 直需第9チーム 遠藤 幸子

直需四部 直需第9チーム
遠藤 幸子

1999年入社。2回の産休・育休を経て、紙原料のパルプの仕入・販売業務を担当。ワーキングマザーとして日々仕事に子育てに奮闘中。

総務部 総務人事チーム 田中 伸治

総務部 総務人事チーム
田中 伸治

1991年入社。名古屋支店、本店で通算18年営業部署を経験、2009年から人事・総務・CSR・大阪の会計部門を担当。

営業開発部 営業開発第2チーム 篠原 進

営業開発部 営業開発第2チーム
篠原 進

1989年入社。静岡駐在員事務所、名古屋支店三菱商事パッケージング出向、本店直需二部を経て現職。エコピープル。

 
 

FSC®の森エコツアー

アイデンティティと強み/提案力

実際に森を歩き、森の管理に携わる方の声を聞く事で、FSCの森を身近に感じていただこうと、東京都檜原村の田中林業(株)とコラボ、イベントを企画、実施しました。

 

FSC応援プロジェクトを通じてお付き合いの始まった東京都檜原村の田中林業(株)はFSCの森をお持ちです。代表の田中惣一さんのナビゲートのもとFSCの森の中を歩き、木々に触れていただくツアーを開催しました。

3月にはFSCの森に自生するイタヤカエデから収穫した樹液でメープルシロップ作りをしました。「木はCO2を吸収して育つでしょう。だから、燃やしてCO2を放出しても相殺される。さらに薪にした木の後で若木が成長し、またCO2が吸収される。循環型のエネルギーとして有効利用したいよね」と田中さん。薪ストーブでじっくり煮詰めて、半日かけて琥珀色に仕上がったシロップの味は絶品! 森の恵みに大感謝です。

9月には「知る・見る・食べるエコツアー」を開催。これには定員を上回る応募の中から抽選で選ばれた14名と環境問題に取り組む大学生10名が参加。「遊学の森」を散策し、動植物の観察をしたり、落ち葉や木の実などクラフト用の材料を集めました。昼食には、FSCの森で集めた薪を使い、石釜で焼く「ピザ作り体験」を。午後には「遊学の森」で集めた材料と間伐材を使ってクラフト工作体験を行い、秋の一日、FSCの森を満喫していただきました。

FSCの森エコツアー FSCの森エコツアー FSCの森エコツアー
 

間伐などの森林保全作業は、人工林には決して欠かせない

アイデンティティと強み/従業員の団結力

田中林業(株)の敷地内で、間伐、下刈りなどのボランティア作業を行っています。社員の森林保全の意識を高めていることはもとより、社内の団結力も高まっています。

 

国土の3分の2を占める約2500万ヘクタールが森林である日本。世界有数の森林国ですが、全体の約4割が人工林です。戦後、急速に木材需要が増え、成長の早い木々が植林されて人工林の比率が高まりました。しかし、安価な木材が輸入されると林業は衰退の一途を辿り、担い手不足も追い打ちをかけ、人工林はどんどん荒廃していきました。

手入れをしない人工林では樹木が十分な栄養を吸収できず、細くて弱い枝が重なり合った暗い森が生まれます。植物が十分に育たない森は土砂崩れや河川の氾濫などの災害を引き起こす原因にもなっています。

当社は毎月1回、田中林業(株)のFSCの森で、従業員による森林整備作業を行っています。FM認証のスキームにより適切に管理された素晴らしい場所で、下刈りや遊歩道の整備、清掃などの活動をしています。

実際に作業をしてみると、大地にしっかり根を下ろした木々の力強さや、想像もできないくらい長い間その場所に鎮座して歴史を見守ってきた岩の存在感など、エコツアーで散策しただけでは気づかなかった「森」の息遣いを感じることができます。そして、それぞれの存在によって森が形成され、人々に恵みをもたらしていることを実感、次の世代に残していくことの大切さをあらためて学んでいます。

また、日常とは異なる空間での共同作業を行うことで、参加メンバーの間で言葉にできない意思の疎通ができるようになってきたようにも感じます。

少しでも森林保全に貢献できれば、という想いからスタートした整備作業ですが、森から学ぶことはまだまだたくさんありそうです。

間伐などの森林保全作業は、人工林には決して欠かせない
 

FSC Friday

アイデンティティと強み/グループネットワーク

日本の製紙業界でFSC森林認証のパイオニアである三菱製紙グループの一員として、環境や社会に配慮して生産された木材製品を選ぶという、誰もが参加可能な森林保全の手段を普及することを目的として、お取引さまをはじめ、これからFSC認証に取り組もうとしているステークホルダーの皆さまとも協働しています。

 

今年のイベント期間は約2週間 各地でさまざまな啓発イベントを開催

FSCの認知度を広めるため、毎年9月最終金曜日に全世界で開催される「FSC Friday」。今年は日本で初めて「FSCフォレストウィーク」と称して、9月11日(金)から28日(月)までの2週間に渡って、主催のFSCジャパン、共催団体WWFジャパンとともにFSC応援プロジェクトとして、参加企業とともにさまざまな企画・イベントを開催しました。

初日には開催を記念してオープニングイベントをダイエー赤羽店にて開催。近隣の幼稚園と協力し、約60名の子どもたちがWWFジャパンの絵本「森を守るマークをえらぼう!」をもとに作成した紙芝居を見た後、店内をまわってFSCラベル付き製品を探しました。ダイエー赤羽店では、期間中継続して来店客を対象に「FSCラベルラリー」も実施。売り場でFSCラベルの付いた飲料紙パックやキッチンタオル、ノートやコピー用紙などの紙製品を探すもので、このような普及の取り組みは世界的にみても珍しいものとなりました。

9月12日には、東京都檜原村にある田中林業(株)へのFSCの森ツアー、9月18日には、(株)イトーキによりFSCビジネスフォーラム2015が開催され100名を超える参加がありました。宮城県南三陸で進行中の森林と海のユニークな取り組み、店舗で使用される建材やテーブルなどの内装に国産FSC認証材が活用されている事例などが報告されました。最終日の9月28日には、クロージングイベントをイオン葛西店にて開催。三菱製紙(株)エコシステムアカデミーと“森のめぐみの紙すき体験”を実施、多数の皆さんに紙づくりの楽しさを感じていただき、FSC森林認証紙は持続可能な生物多様性の森林からつくられることを知っていただきました。

FSC Friday FSC Friday
 

世界に広がるFSC認証のしくみとは

森林認証制度を運営する国際機関のひとつがFSC(Forest Stewardship Council®/森林管理協議会)で、FSC認証は2種類あります。適切に管理された森を認証する「FM認証」は、あらゆる管理者・所有者の森を対象としています。

また、そこから生産された木材を加工・流通段階において他の木材と混ざることなく管理した事業者を評価するのが「COC認証」です。国際的にも信頼性が高い制度であり、FM認証は80カ国1358カ所、COC認証は113カ国2万9508件へと普及しています。

FSC認証のしくみ
 

間伐材ノベルティ

アイデンティティと強み/提案力

木の成長にしたがって適切に間伐や下刈り、枝打ちを行うことで樹木が十分な栄養を得て健全な森が保たれます。国産間伐材の利用促進は、お客さまが国内の森林や林業を元気にすることにつながります。

 

国産間伐材によるノベルティグッズの製作を行うフロンティアジャパン(株)さんとの協働関係はさらに深まり、国内森林保全で生まれた間伐材を有効利用するいくつかの取り組み事例が進行しています。例えば、森林の整備、伐採作業に欠かせない重機メーカーに間伐材ノベルティを提案したところ、「森林保全にも貢献する企業目的とも合致し企業価値が向上する」と、喜んで採用いただきました。

FSC認証品もできることになり、さらに環境に配慮した商品も揃えました。

間伐材ノベルティ 間伐材ノベルティ
 

私たちの経験と大学生のアイデアを連携させて、
新しいスキーム構築に向けて協働

アイデンティティと強み/提案力

セキュリティを確保しながら資源循環に役立つクローズドループサイクルなど、私たちが持つスキームや経験を大学生の新しい視点と組み合わせることで、新しい社会的価値を創造しようとしています。

 

千葉大学では、2003年10月に環境ISO学生委員会を発足させ、2007年にはすべてのキャンパスでISO14001認証を取得。また、2009年には同委員会をNPO法人とするなど、早くから環境に関する取り組みを進めています。当社は同委員会の皆さんと、学内で発生する古紙の循環スキームの構築、間伐材の有効利用等の検討を進めています。

9月には当社が行っている森林整備作業の現場(東京都檜原村)にも足を運んでいただきました。感性と経験の融合の中から新しい発想が生まれ、未来につながる製品・サービスを生み出すことができるでしょう。

新しいスキーム構築に向けて協働
 

エコユニット

アイデンティティと強み/従業員の団結力

主体的に環境に関わる“人”づくりの視点から、日本商工会議所が主催となり年2回開催する「環境社会検定試験(eco検定)」の受験を推進しています。昨年eco検定の合格者を中心に、環境問題を会社ぐるみで取り組む「エコ・ユニット(eco-unit)」に登録しました。

 

昨年、「次の世代の子どもたちのために」をテーマに、環境事業「with Forest +(プラス)」を始動、その事業名をエコユニット名として本年2月に登録しました。今後ともエコユニット企業として、検定試験で習得した環境に関する基礎知識を日々の業務の中で活かし、お取引先さまの環境活動をCSVの視点でサポート、ストーリー性のある環境提案を行うことで、環境事業をさらに推進してまいります。

プレスリリース「エコユニット(eco-unit)」登録承認
https://www.mitsubishi-kamihan.co.jp/corporate/pdf/150219_news.pdf

エコユニット
 
 

FSC® C011851